馬とのくらし in 淡路島

2022.07.01

この記事は淡路島在住のお二人とつくりました。
ライター:上田志保さん / カメラマン:中田アツシさん

馬と田んぼを耕せるって知っていますか?淡路島の西海岸を望む【SHARE HORSE ISLAND(シェア・ホース・アイランド)】は、二頭の保護馬との豊かな時を過ごせる交流牧場です。代表の山下勉さん(=VENさん)に、「馬とのくらし」を伺いました。

淡路島にやってきたラッキーホース

VENさんは2013年に淡路島に移住してきました。ひとつの土地に住み続けたことがなかったそうですが、「海と山がある島の環境にしっくりきた」のだそう。

VENさん:
馬は好きでしたが、馬を飼いたいから島に来たわけではなかったんです。
ところがある日、近所の庭先で馬を見かけ、ふらっと引き込まれてしまいました。
馬に乗って往診することで有名な獣医の山崎博道先生のお宅でした

思いがけない出逢いから、山崎先生のもとで何度も馬と過ごすうちに「馬とくらす豊かさや、馬の可能性に思いが募っていった」とVENさんはいいます。

縁あって2016年に保護馬の「風月(ふうげつ)」を迎え、2017年にシェアホースアイランドを設立。2018年には2頭目となる「アネロワ」も引き取り、妻と二人のお嬢さん、二頭の馬との日々を送っています。

VENさん:
のんびり癒し系の風月は農耕馬。ツンデレ系のアネロワは元競走馬。
どちらも女の子です。
ここでは、エサをあげて咀嚼音を聞いたり、一緒に海辺や里山を散歩したりなど、まるで馬とくらすような心地よい時を味わえます。
ほかにもホースボード(馬ソリ体験)、馬合宿、馬場BBQなどたくさん。
馬の歌しか演奏しないユニークな『馬場BAND』に会える日もあるんですよ

牧場でのリアルな体験はもちろん、近年は、オンライン上でも馬との時間を楽しむ交流の輪を広げています。淡路島ならではの海や山の空気感も「癒される」と好評のようです。

VENさんは馬たちを「ラッキーホース」と呼んでいます。保護馬のイメージと逆のポジティブな表現に思わず疑問を持ってしまいました。

VENさん:
どちらもピンチを乗り越えた強運馬。
風月は天然記念物の元・寒立馬(かんだちめ)ながらも、食肉にされる目前でした。
アネロワも競走馬としては1勝もできず登録抹消された後に出逢いました。
前の場所では役割を無くしたけど、僕らと一緒なら新たな活躍の場を見つけられると思って引き取りました

苦境から縁をたどって淡路島にやってきた風月とアネロワ。今ではたくさんの島内外の人を笑顔にしています。

古くて新しい「馬とのくらし」

馬といえば乗馬や競馬を思い浮かべる人がほとんどでしょう。しかしVENさんは「ほかにも馬の可能性はある」と言います。

VENさん:
かつては馬搬や馬耕(※)などで活躍するくらしのパートナーでした。
便利さは機械に敵いませんが、山に機械を入れるための道を作らなくていいなど、動物と共にあるくらしは環境にも優しい。
それに、友達のような楽しさがあるのも動物ならではです

人類には馬と共に歩んできた数千年もの歴史があるにもかかわらず、ここ100年ほどの工業化によって、馬とのくらしを手放してしまったというわけなのです。

VENさん:
『豊かさ』の尺度は効率化だけではありません。
実際、馬とくらす僕らはゆっくりとしたプロセスにこそ豊かさを感じています。
今の時代に合わせた形で取り戻していく方法を模索しています

※馬搬:ばはん/山から伐採した木を馬と運び出すこと
 馬耕:ばこう/馬と田畑を耕すこと

ふと見ると、馬耕の合間にムシャムシャと道草を食っている風月の姿が。ほっと気持ちが和らぎました。

VENさん:
馬耕は、馬の気分や体力を推し量りながらやらなきゃいけない。
風が強い日は作業を嫌がったりとかね。人もすごくスタミナがいります。
でも、それを乗り越えてできた時、すごく『つながり』を感じます。
言葉の通じない馬と働くことは、さらに偉大な自然との関係をつないでくれるような気がしています

馬耕での米づくりは、古くから米どころである五色町の人との関わりを深めるきっかけにもなったそうです。

VENさん:
きっと『馬を飼う変わった兄ちゃん』という目で見られていたと思います。
馬耕をはじめてからも「なんで今どきそんなことしてるの?」と。
でも、子どもたちや仲間と田んぼに集まってワイワイ働いていたら、ご近所さんからも興味を持ってもらえるようになってきました

トラクターは一人で効率的に作業できますが、馬耕は人手が必要です。エンジンの代わりに、馬をかけ声で後押しします。にぎやかな馬耕の風景は、どこか懐かしさを感じる光景でした。

ランチ時間になり、取材班は妻・恵子さんが用意してくださった馬耕米のおにぎりをいただくことに。青空の下、馬のそばで食べるおにぎりは格別で、やさしく甘い味がしました。

 「馬のコミュニティ」を創りたい

アネロワは、元・競走馬にしてはやさしい性格。普段は中・上級者向けの乗馬体験を担当しています。

近年では、サラブレッドのしなやかなボディを生かして撮影モデルの仕事も獲得しています。写真集やウェディングフォトでの働きぶりは、美しさに目を奪われるほど。ライブ配信などのオンライン体験企画でも、麗しい姿にファンが増加中です。

VENさん:
アネロワは競馬では結果を残せませんでしたが、違う可能性が必ずあるはずだと思っていました。
風月と比べて出番が少なかったのですが、注目が集まってきてとっても嬉しい。
アネロワらしい役割をもっと引き出せればと思っています

VENさんの言葉からは、すぐに成果が出ないから切り捨てるのではなく、アネロワを信じて気長に待つやさしさを感じました。

VENさんと話していると、「馬は言葉が通じない」という表現が何度も出てきます。

VENさん:
人は言葉に頼りすぎかなと思うことがあります。
言葉が通じない馬とのコミュニケーションは、自分の本音や課題、他者との向き合い方に活かせる気がします。

例えば、馬とふれあうことで心を癒すホースセラピーは知られていますが、僕は馬による『エンパワーメント』の可能性も探っています。
馬から力をもらうだけじゃなくて、眠っている力を引き出してもらう。
コーチングやチームビルディングなどの企業研修の機会としても役目があるのではないかと考えています

さまざまなアイデアで馬との新しいくらしを生み出すVENさんは、「馬を軸にしたコミュニティを作りたい」と語ります。

VENさん:
若い人たちにとっては古すぎて、むしろ新しさを感じてもらえるかもしれないですね。
馬好きの人だけではなく、多様な価値観を持つ人とも共鳴できることを探して、コミュニティを広げていきたいです。

豊かな自然を守ることや、他者を敬い自分を大切にすることなど、馬から得られるたくさんの豊かさ。
利便性では劣りますが、それだけにとてもクリエイティブなんです

保護馬を引き取り、ラッキーホースと名付ける。
馬に乗る以外にも、可能性を見つける。
古いくらしを手放さず、現代に取り戻す。
言葉に頼りすぎず、相手を推し量る。
VENさんは、凝り固まった見方を変えることで価値観が逆転することも教えてくれました。

やさしさでつながっていく未来のくらし

山下さんは、馬小屋を「yosuga」と名付けています。漢字では「縁」と書き、よりどころという意味があります。

yosugaには、仲間やゲストが馬との時を楽しみに集まってきます。再生可能エネルギーの研究職から農家に転身した吉田あゆみさんは「やっていきたいことなど、未来の話をしている時が一番ワクワクします」と話してくれました。

山下さんが続けます。「彼女とは、合理性ばかり追いかけないという点で話が合いますね。価値観を共有する仲間がじわじわ広がっている実感があります」

愛犬のポン太とともに馬耕見学に訪れていた隣人のリチャード・サドウスキーさんが「昔の人は馬の尽力に助けられたのでしょうね。風月は力持ちだね」と優しく見守る姿も印象的でした。

yosugaは、VENさん一家の馬のとくらしに共感する仲間たちと古い牛小屋をリノベーションしたそうです。

VENさん:
クラウドファンディングでは牧場整備や地元の子供たちとの交流活動に多くの支援をいただきました。
馬とのくらしはいろんな人のやさしさでできていると感じます。

島内のオーガニック農家さんや島内の樹木でものづくりを行うプロジェクトなど、近隣だけでも多様な輪が広がっていて、僕らも馬と一緒に関わったり、刺激を与え合ったりしています。
こういう輪がたくさん生まれて波紋のように重なると、社会全体がやさしく、未来がより豊かになっていくのでしょうね

---後日、筆者は再びおじゃまして、風月に乗せてもらいました。背をのばすと、遠くに瀬戸内海の水平線が。青々とした田園風景も見渡せて、透き通った風も心地いい。

「馬に乗るとパッと視界が変わるでしょう?気持ちがふわっとして、言葉にできない豊かさを感じますよね。僕が馬に心惹かれたきっかけは、この瞬間なんですよ」とVENさん。

馬とのくらしに興味が湧いたら、馬たちに会いに行ってみるのも良いかもしれません。
どこか懐かしくも新しい、やさしい体験から、きっと心が動く瞬間を感じることができますよ。

関連リンク

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こちらの記事は、
この方々と一緒につくりました!

「コピー・デザイン・イラストで想いに触れる」淡路島在住
上田志保さん(ライター)

<撮影の感想>
ひとつとして同じエピソードがなくとっても刺激的でした。
みなさんの夢が重なっていくと、
島の未来がもっと楽しくなりそうです!

こちらに掲載している淡路島のマップも上田さんのデザインです。ぜひご覧ください。

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淡路島を拠点に活動する写真家
中田アツシさん(カメラマン)

<撮影の感想>
地元での撮影でしたが、動画と並走する形だったためタイミングを読みながらのとてもスリリングな撮影で、普段以上の達成感を得られました。

記事内の素敵な写真は、すべて中田さんに撮影していただきました。

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